2014-10-16 ― アラビアのロレンス

やっとこ「アラビアのロレンス」を見終わったので、まずその報告を
3時間47分(完全版)というこの長編大作映画は、先日見た十戒をも凌ぐ
で、初見の正直な感想なんだけど、凄く面白い
エボラの特効薬と間違えて睡眠薬を飲んだとしても、きっと自分は飽きずに見ていられる
多分
でも長い
長いんだよ、この映画
でも見ちゃう
だって面白いんだもの
以下、例によって長文と妄想が綴られています

 

物語というのは、主人公とその人物に深く関わった人たちの人生を切り取って描かれる
アラビアのロレンス、その冒頭はどう見てもアラビアじゃない、どこかの田舎道を愚か者がバイクに乗って疾走しているところからはじまる
バイクに乗った愚かなイギリス人、きっとここはアラビアじゃなくてマン島だ
どこでも良いが、そのバイクに乗った男は事故に遭う
次の場面は葬式だ
そう、彼こそがT.E.ロレンス
人呼んで、アラビアのロレンスだ

時代は1916年
ロレンスはイギリス軍の士官(少尉)
あまり軍人らしくない風体で、正直言って浮いている
そんな昼行灯のような彼が指揮官に呼び出されたのは、彼がアラブやアラビア語に精通しているからだそうな
イギリスの目論見としては、当時オスマン帝国からの独立を図ろうとしていた、族長の息子ファイサル(つまり王子様)と共闘するため
敵の敵は味方ということだろうか

大英帝国版図

淫乱なピンクに濡れた色をしている地域が、イギリス統治の経験がある地域と国
なんだこの版図
陽の沈まない国って、こういうことか
頭おかしいんじゃねえの
よくもまあ、こんな国を相手にまわして独立戦争したなあ、アメリカは
脱線しかけたので話を戻すと、アラビア半島の辺りに注目したい

スエズを挟んだエジプト周辺と、アラビア半島の沿岸がイギリス領となっている
内陸にかけての広大な砂漠地帯は手付かず
戦略的には、素人考えだが完璧な包囲網だと思う
まずはスエズ
ここ、とても大事
海峡というのはだいたい重要な場所なんだが、スエズはパナマと並んで別格
ここには地中海と紅海を結ぶ運河があり、その詳細はウィキペディアなどの百科事典に詳しいが
この要衝を押さえておかないと、インドやアジア・オセアニアなどに船を出すときにアフリカを回らないといけない
飛行機全盛の現代では想像しにくいだろうが、昔から大量の物資と人を運ぶ最良の手段は船にかぎる
ぶっちゃけ、現代でも海路を使わないと物資や兵器の大量輸送は効率悪いので、海軍力は非常に重要
海兵隊さえあればなんでもできると勘違いしている、ケニア人のバラク・フセイン・オバマもいるけど、違うから
海兵隊、空母持ってないから
それ海軍さんの持ち物だから
とにかく、スエズは世界中に領土を持っていたイギリス大帝国にとってとても大事だという話

ロレンスはイギリス軍に無茶ぶりされて、アラビアへ
ラクダにも満足に乗れない、なんとも頼りないが彼の青い目は砂漠に吸い寄せられていく
色々あって、彼は族長の息子、ファイサルとの会見を果たす
ファイサルは賢明な王子だったと思う
彼は自分の兵隊が弱いことをよく知っていたし、なぜ弱いのかについても良くわかっていた
イギリスの支援を取り付けられる機会と判断したのか、ファイサルはロレンスは歓迎される
そうした為政者の冷徹で政治的な判断以上に、ファイサルはロレンスのことを気に入っていたように見えた
ロレンスのアラビアや砂漠、そこに暮らすアラブの人々に対する姿勢は、イギリス軍の士官という彼の立場を逸脱したものだった
しかし、だからこそというべきなのだろうか
イギリス軍の支援を受けて、ファイサルの一党はオスマン帝国への反攻に出ることに

ロレンスは巧みに指揮をとり、軍団を勝利に導いていく
ファイサルから軍団を任された、アリとは対立することもあるが互いに実力を認め合っていい感じだ
ロレンスはアラブ人に寄り添うように、戦い、勝利し、イギリス軍の規律に従っていた
つまるところ、捕虜の取り扱いなのだが、これには明確な国際条約がある
だが、それは欧米社会での常識であって砂漠での戦いでは必ずしも適用されない
しかし、ロレンスは捕虜を条約に則って扱った
アラブ人たちの心にはそれが慈悲に映ったのかもしれない、彼はその行動の端々で英雄になろうしているのが窺える
時に無謀な行動も冒すが、結果的に彼は生き残り、彼のその姿勢を見た人は彼を英雄視する
だが、戦闘を行えば当然味方にも死傷者が出る
砂漠は全てを呑み込む、命と等価の水も、血も、涙も
だが、ロレンスは?
ロレンスは次第に凄惨な砂漠での戦いに疲弊していく
彼はだんだん気づいていたのではないだろうか、自分がアラブ人になれないことに
理屈の上では、当たり前だと笑われるかもしれないが、彼はイギリスという大きな渦巻きのような国から、任務とはいえ脱出できた
しかし、脱出した先でも彼はあくまで異邦人だった
アリをはじめとして、一緒に戦った同胞たちはロレンスのことを「たった一人の首長」と認め、彼にアラブの衣装を用意してくれた
ロレンスはアラブの族長として認められたはずだった
ただ、ロレンスの青い目がシュマグから覗くように、彼の瞳は砂漠に魅せられている
これは自分の偏見でもあるのだが、北国の人は雪に喜ばない
雪は道を通れなくし、屋根をその重みできしませ、時には人の命おも奪う
一方、観光客は雪に目を輝かせてスキーやスノーボードといったレジャーに興じる……

要衝、アカバを陥落させたロレンスの一党
ロレンスは報告のために司令部へ出頭する、一人のアラブ人の少年を伴って
イギリス人たちは、司令部にアラブ人がいることを良く思わず、彼を追い出そうとするが、ロレンスはそれを止める
20世紀初頭までのイギリスは厳格な階級社会、軍隊なんか目じゃないくらいシビアで冷徹で排他的
ただし王室は除く

自分と一緒の席でアラブ人の少年とレモネードを飲む、この構図は多分に色々な意味を含んでいる
アラブでの戦いは、建前ではアラブ独立をイギリスが支援するという形にはなっている
しかし、水面下では独立支援の見返りに利権やら何やらきな臭いものを、イギリスはアラブに要求してくるだろう
別にイギリスがそういうゲスい国だということではなく(実際はもっとヒドい)、政治とはそういうものなんだそうな
ただ、前線でロレンスとともに戦っているのは紛れも無くアラブ人だ、その戦いはイギリスのためでもある
心無い人が、司令部に相応しくないアラブ人を追い出そうとしたら、それを止められるのはロレンスしかいない
何しろ、彼は大英帝国の英雄に祀り上げられているのだから
ただ、この時のロレンスはかなり疲弊していた
司令官に弱音を吐く場面もあるものの、彼はもう一度奮い立つ
アラビアとアラブ人のために

再び前線に戻るロレンスは戦い続ける
敵に捕虜をとられると残虐な未来が待っていることを知っている彼らは、味方にも容赦しない
重傷者は味方の手で止めを刺されるのが慣例となっていった
そして世にも有名な凄惨な「メギドの戦い」が起きる
その詳細はウィキペディアに詳しいが、ここではロレンスにフォーカスしたい

兵力を減らしつつも、ロレンスとファイサルの一党は進撃する
目標は、英軍より一歩でも早くダマスカスを占領することだ
ダマスカスというのはアラブの人たちにとっては、特別な地なのだった
そこを手に入れることは、軍事的にも政治的にも重要な意味と価値がある
さらに、それをアラブ人の手で達成できれば、その効果は計り知れない
ロレンスの胸中にそんな思惑があったかは知れないが、その程度の理屈は彼の知るところだっただろう
だが、彼にとってはそれこそが大きな落とし穴になっていた

アラブ人たちはダマスカスを手に入れた
遅れて、イギリス軍もやってきた
彼らは次の段階として政治的な話し合いの場を設ける必要があった
互いに対オスマンという大きな利害は一致をみているものの、ダマスカスを含んだアラビアの土地を今後どのように統治するかという問題がある
話し合いのテーブルにつくのは、ファイサルとイギリスの政治家であり、ロレンスは蚊帳の外に放り出される
両者の話し合いは、比較的スムーズに妥協点が見出されて、無事に握手を交わす
ただ、彼らにはもうひとつ、ロレンスという懸念材料があった
ロレンスはアラブ人を率いて、ダマスカスを陥落、占領するという偉業を成し遂げた
ただ、その事実は今後のアラブとイギリスという国家レベルの話し合いの場では、邪魔だった
アラブ人が、アラビア独立のために戦って、ダマスカスを落としたという事実は欲しい
なのだが、それを率いていたのが肌の白いイギリス生まれのアラブ人では、色々と都合が良くない……ということ

イギリスという大きな国から脱出を図り、砂漠に魅せられたロレンスは結局失意の中でアラビアの土地を去る
映画はここで冒頭のようにバイクが映る
しかし、乗っているのはロレンスではない
ロレンスはイギリス軍の車に乗っていた
砂埃を立てながらバイクがロレンスの車を追い越していき、ロレンスの車はその後塵を見送る
アラビアのために戦い、アラブ人とイギリス人に置いてけぼりにされたロレンスという、悲しげなエンディングを迎えていく

英雄というのは、死んだ時にその物語が完結する
英雄が求められるのは常に乱世であり、平時には無用の長物と化してしまう
なんとなく、ドラクエの漫画、ダイの大冒険を思い出してしまった
ダイは純粋な人間ではなかったものの、ドラゴンの騎士の力を以って「人間の」平和のために戦った
決戦の最中、大魔王バーンは予言する
たとえ自分を討ち滅ぼしたとしても、平和になった世界は、人間たちはダイを、勇者を迫害するだろうと
それはダイの父親、バランが辿った道だった
ダイは戦いの後で姿を消した
どこに行ったかはわからない……

あと思い出したのは、銀英伝のヤン・ウェンリー
彼もまた、ロレンスと同じような軍においては昼行灯のような人だった
それでいて、打つ手打つ手がことごとくとして当たる、魔術師の異名をとるほどに
ただ、帝国と同盟との間での戦争が一段落すると、彼のような存在は同盟の政府内で腫れもの扱いされる
帝国との講話の障害と見なすや、同盟は、国家の命の恩人ともいうべき、ヤン元帥を亡き者にしようと、蠢動したほどに

英雄の物語はいつも悲しい
桜は散る時が一番美しい

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