2014-03-06 ― この世界の片隅に

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この世界の片隅に / こうの史代

 子供と一緒にEテレ見てたら、望郷の想いを呼び起こされる様なアニメPVが流れ「何これ良いな」と調べていたら、『花は咲く』という復興支援曲だった。
 で、探して見つけて、の流れをTwitterにポストしてたら、「この人の漫画ですよ」と教えてくれた人がいて、それが表題漫画の映画化プロジェクトの中の人。
 アニメPVの雰囲気が非常に良かったので、せっかくだし漫画の方読んでみようとKindleで購入して読んだ。
 単に「作者を紹介された」という事以外、全く前知識なしで読んだんだけれど、なるほどアニメ化されようとしているだけあって、いろんな意味で面白い作品だった。

 戦中~終戦までの日本、広島を舞台にした漫画なんだけれどちょっと変わっていて、「当時の生活」にスポットがあたっている様に感じた。
 第二次大戦中の日本や原爆の話は漫画・小説・映画といろんなものが出ていて、その内のほんの幾つかは俺も観たり読んだりした事はあるけれど、この作品の様な視点で描かれたものを他に知らず、とても面白いなぁ、と思った。
 特攻隊も戦闘描写も、空襲に逃げ惑う人々も殆ど出てこない。にも関わらず、戦争を感じるし、”重み” は伝わってくる。読んだ後、この “重み” を言葉に出したいんだけれど、全く言葉に出来なくてもどかしい気持ちになったし、今も言葉に出来ないまま。
 『この世界の片隅に』はそのくらい、いろんな事を考えさせられてしまう作品だった。

 主人公は「すず」という女の子。
 実家に暮らす子供時代から始まり、成長し嫁いだ先の広島での生活が、戦中の風俗文化と共に丁寧に描かれている。
 最初は殆ど「戦争」を感じなかった。ほのぼのとした作画も相まって『サザエさん』のオリジナルを読んでいる時の様な印象 (サザエさんで感じるのは戦後の風俗文化だからちょっと違うけど)。
 前述の様に前知識なしで読み始め、しかも一番最初の話は「ちょっと奇妙な体験」のお話だった事もあって、「当時の生活を描く漫画なんだな」等と思いつつ読み進めてた。
 実際当時の生活がかなり細かく描かれていて「ちょっと時代違うだけで、もう “異世界” だよなぁ」と思ったり。(余談だけれど『乙嫁語り』も、違う文化圏の生活を丁寧に描くとそれはもう読み手としてはファンタジー漫画読んでるのに近い感覚になるなぁ、と思ったりした)

 「あれ?空気が変わってきたぞ?」と感じるのが中巻。
 次第に戦争の気配を感じ始める。空襲警報の話や防空壕の話が出てくる。遠い処で行われていた戦争が、次第に近づいてきているのを感じる。
 この流れ、巧いなぁ、と思う。
 風俗文化を中心に描かれてきたのを1巻分しっかり読んでいるから、身体半分くらい “登場人物と一緒に生活” しているんだよね、漫画の中で。
 で、戦時下の不便さはあるけれど、慎ましく生活できてる。できてた。そこに少しずつ戦争の話が混ざり込み、不安を感じる。漫画の登場人物と大きく違うのは、読者である俺等は結末を知っている事。
 改めて考えてみると、この構図は映画の『タイタニック』と似てるね。

 そして不安を感じながら読む下巻は、やはり、非常に重い。
 俺は子供が2人いて、あとたまにイラストを描いて遊ぶんだけれど、その辺で変な風にすずや経子に感情移入してしまって、読んでいてとても辛い部分があった。
 今迄の、慎ましくも楽しかった生活にピシッとひびが入り、数枚の破片が落ちた後、一気にバラバラになるような、そんな描かれ方。

 と言っても、登場人物がバラバラになるような、そういう描かれ方じゃない。さっき名前を挙げた『タイタニック』や、(同様に戦中を描いた有名な作品ということで挙げるけど)『火垂るの墓』の様な、”皆が死に向かう” 様な作りではない。
 描かれているのは、やっぱり当時の “生活” なのだ。更に言うと、空襲があっても、原爆が落ちても、主要な登場人物で明確に「死」が描写されるのは、たった1人。
 にも関わらず十分以上に「戦争と原爆」の重みを感じられるのは、上巻の生活感であり、中巻の感情移入であり、この作品の凄いところだなぁ、と思う。
 描き切った事も凄いけれど、これを連載していた雑誌も凄いよね。

 最後に細かいところ。

 すずの旦那さんになる周作が「出会ったのはこの橋」みたいな話をするんだけれど、これちゃんと描かれてたんだねぇ。
 「へぇ、そうなんだ」と適当に流して読んでたんだけれど、唐突に出てきた話という訳ではなく伏線が描かれていたって事に全く気づかないまま読み終えてしまった。(Wikiで登場人物の名前確認していて始めて気づいた)

 心象風景、というかモノローグというか、その辺の描写の仕方・感性がとても女性的で、漫画を飛び越えて何か別のもの…文学的な何か?を感じた。
 すずと水原、リンとの関係の描き方も同様に「女性的な感性」を感じたけれど、前述のものとは違って (品のない言い方になるけれど) 「女を感じる」様な描写だったので、何となく作画とそれまでのすずの印象と、に合わない感じがして、ちょっと苦手。
 でもそのエピソードも必要不可欠なものだったりするんだけれどね。(笑)

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